Contributed text for 3331 GALLERY #044 Miya Kaneko Solo Exhibition “Undiscovered Asteroids Observatory”
Contributed text for 3331 GALLERY #044 Miya Kaneko Solo Exhibition “Undiscovered Asteroids Observatory”
- AUTHOR:中村寛
金子未弥さんは地図と格闘しているんだな。かつて私はそんな印象をもった。アルフレッド・コージブスキー、グレゴリー・ベイトソン、ジャン・ボードリヤールなどの思索家をつうじて私たちは、地図が土地そのものではなく、人間の不完全で偏りのある知覚に基づいて切り取られた部分的情報を刻印したもので、地図−土地の完全な一致は不可能でありながら、ひとたび地図を手にすると、人はその地図を通じて土地そのものを認識してしまう、ということを知っている。だから、抜け落ちるもの、はみだしてしまうもの、上塗りされて沈んでいくものを探求する余地がでてくる。
そのとき彼女は、大きなアルミ板に地名を刻印することで、地図の背後にうごめく、都市の記憶という巨大で果てしのない問題系に向き合っていた(《地図より都市を望む》《内在する都市》2015)。地図には掲載されにくいことがらがある。たとえば、音や匂い、個の記憶などだ。金子さんはそれらの忘却に抵抗し、叫ぶように、まったく新しい地図を打ち立てようとしているかのようだった。絵も描かず、モノも創り出さず、ただ漂流するだけの私にとって、それは途方もない営みに思えた。
その後、金子さんの作品はさらに展開する。彼女は、《地図の沈黙を翻訳せよ》(2017)の制作をとおして、他者が語る地図の記憶に出会い、都市がわからなくなっていったという(本人との会話、2022年5月29日)。けれども、認識が深化していくプロセスは、きっとこの「わからなくなること」を含んでいる。「わかっていたこと」を学びほぐし、手放すことで、のちに金子さんはかえってかろやかに飛躍し、都市の概念を大胆に拡張し、地図を翻弄するかのような表現を紡いでいく(《見えない地図を想像してください》2018、《雨上がりに、新しい地図を与えよう》2019、《思い出せない場所について教えてください》2021)。出会った声に引き込まれてあそぶことをおぼえ、見知らぬ地図を生成させる金子さんを、羨ましく思う。文字にしばられた私は、地図を燃やす旅にでかけるくらいしか、なすすべがないから。
中村寛(人類学者/デザイナー・多摩美術大学教授)
Miya Kaneko grapples with maps. This is the impression I got a while ago. At the time, she had engraved names of locations on a big aluminum plate, confronting the issues surrounding cities and memories that lay behind maps (“Wishing for a City through a Map” “The City Within”, 2015.) Some things are difficult to put on a map. Like sounds and smells, and individual memories. Kaneko resisted this oblivion, and it looked to me, as if she were screaming to try and build a new map. After that, Kaneko’s artworks developed even further. Encountering the maps of memories shared with her by others, she began to no longer comprehend cities. However, in learning and taking apart “what she knew”, she leapt gracefully, weaving together her expressions, as if tossing away the map altogether (“Please Imagine a Non-Visible City” 2018, and other works.) I am envious of Kaneko, who brings to life unseen maps, having learned how to play with and get sucked into the voices she encounters.
-Yutaka Nakamura
Anthropologist/Designer. Professor at Liberal Arts Center/Graduate School, Tama Art University